令和 4 年度 第 1 次試験問題 企業経営理論 第五問 解答と解説

解答

 

2.

 

解説

 

五問目は、M&A(企業の合併・買収)に関してです。この問題も知識問題で、用語知識が必要になる問題です。ただ、M&Aに関しては、様々な形で問題が出題されますので、広く理解しておく必要があります。が、今回はとりあえず、問題をひとつひとつ見ていくことにしましょう。

 

1. TOB とは、買収コストを充足するために、買収する企業の資産や買収後のキャッシュフローを担保として借入金を調達し、企業買収を行う手法である。

TOBとは日本語で言うと、株式公開買い付けのことです。まずはWikiを見ましょう。

株式公開買い付け 

株式公開買付け(かぶしきこうかいかいつけ)とは、ある株式会社株式の買付けを、「買付け期間・買取り株数・価格」を公告し、不特定多数の株主から株式市場外で株式等を買い集める制度のことである。日本では公開買付けをTOB(take-over bid)と言うことが多い。

日本における公開買付け

日本では金融商品取引法(旧証券取引法)において一定の場合に公開買付けを義務づける強制公開買付制度が採用されている

具体的には金融商品取引法第27条の2により、有価証券報告書の提出が義務付けられている株式会社等(証券取引所上場する株式会社など)の「株券等」を発行者以外の者が市場外で一定数以上の「買付け等」をする場合などには、原則として公開買付けによらねばならないと定められている。

同法に定められた公開買付けは、その実施主体者の違いにより「発行者以外の者による株式等の公開買付け」と「発行者による上場株券等の公開買付け」に分けられている。

公開買付けが強制されることの趣旨は、経営権の移転に関する情報開示、株主平等の原則コントロール・プレミアムの平等分配の3つにあるとされる。

実施に際しては、条件の新聞への公告や、財務局への届出の手続が必要となる。実施中は、この方法以外で当該株を購入することはできない。

 

「株式公開買い付け」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2022年10月27日 (木) 04:58 UTCURL: 株式公開買付け - Wikipedia

 

各国、微妙にその制度は異なりますが、公開買い付け制度は存在します。が、中小企業診断士試験としては、日本のさえ分かっていればよいので、上記は、日本の場合を掲載しています。

基本的に一定以上の株を一気に買うときは、公開しなくてはいけないですよって話ですね。公開方法が、新聞への公告で良いのか。あと、財務局への届け出が必要であると。公開買い付けが強制される趣旨が、3つあって、経営権の移転に関する情報開示、株主平等の原則、コントロール・プレミアムの平等分配の3つがあるとされているというのもポイントですね。コントロールプレミアムについては、別の選択肢に出てきています。

次に、企業買収という観点で、他の企業買収の種類を確認しておきましょう。

 

MBO

MBO (Management Buy Out)とは、買収しようとしている企業の経営陣が自ら、株主から株式を買い取って、経営権を握る手法です。敵対的なファンドから買収をしかけられる際の防衛策から実施したりします。もっと、買収の手順などありますが、今は、ポイントは経営陣自らが買収するのが、MBOとしっかり覚えましょう。MBIが似ているので、しっかり区別しましょう。

 

MBI

MBOとの比較のために、MBIを先に見ましょう。この買収の目的はいわば、経営の立て直しです。技術は良いのだけど、経営がうまく運営できていない企業みたいなところがあったとして、これは逆に外部ファンド、投資家などが、買収を行い、外部から経営陣を送り込み、その外部の経営陣が経営を立て直すのが目的です。どうして、こうも混合しやすい名前にしてしまったのか疑問です。Buy Out は買収で、Buy Inは買い付けになるかと思いますが、経営陣がBuy Outする。経営権をBuy Inする、ってことなのか。

 

LBO

LBO (Leveraged Buy Out) は、買収のために準備しなくてはいけない資金を抑えた買収のやり方です。原理としては、買収の対象となっている企業の資産などを担保にして、買収のための資金を融資してもらうという、なんかそれでお金貸してくれるのっていう怪しげにすら思ってしまう仕組みです。

 

EBO

MBOは、自社の経営陣が株式を買収するのに対して、EBO (Employee Buy Out) は、従業員が株式を買収するやり方です。従業員が反乱でも起こす際にやるのかとも思いましたが、後継者がいない場合に、従業員へ経営権を継承する際に取られる場合が多いようです。

 

ここでやっと問題に戻りましょう。「買収する企業の資産や買収後のキャッシュフローを担保として借入金を調達し、企業買収を行う手法」これは、TOBではなく、LBOでしたね。誤りです。

 

 

2. 黄金株とは、会社の合併などの重要な決議事項について、株主総会で拒否権を行使できる株式であり、敵対的買収に対する防衛策となる。

まずは、黄金株とは何でしょう?

黄金株 

黄金株(おうごんかぶ)とは、買収関連の株主総会決議事項について拒否権を行使できる株式をいう。譲渡制限が付けられることがある。

 

2006年の会社法の施行により譲渡制限付きの黄金株の導入が可能になった。仕組み的には拒否権付種類株式(会社108条1項8号)を利用する。黄金株は拒否権付種類株式の使い方の一つという位置づけになる。

経済産業省法務省ガイドライン敵対的買収に対する予防策として黄金株の導入を認めたが、東京証券取引所東証)は黄金株を導入した会社について上場を拒否する旨を発表する。このことは株主が協同で企業への資本出資を行いリスクを背負うという株主平等の原則を無視し、経営者の都合のよい経営を助ける者に独占的に強権を与え、それ以外の株主から経営を遠ざけるものという視点からは妥当な対応と考えられた。しかし、2005年12月16日株主総会の決議で無効にできることなど、一定の条件つきで黄金株を認める方針を固めた

 

「黄金株」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2022年5月4日 (水) 11:27 UTC

URL: 黄金株 - Wikipedia

まあ、ざっくり言うと、強い権利が付いてくる株ですね。信頼できる株主に発行しておけば、敵対的買収に対して、有効な対応手段となります。また、裏切られないように、譲渡するには一定の制約をかけられるなどあります。

さて、問題を見ると、まさにな説明ですね。これが正解です。

 

3. カーブアウトとは、敵対的買収の対象となる企業の経営者が、買収される前に会社の魅力的な資産を売却して、敵対的買収の意欲を削ぐ買収防衛策である。

 

まず、先に結論を言ってしまいますが、説明は買収の防衛策について述べられていますが、カーブアウトは買収の防衛策ではありませんので誤りです。カーブアウトは、一部の事業を切り出して、独立させることを言います。NTTがdocomoを切り出したのなんんかが有名な話ですよね。切り出すことによって、収益性を上げたり、またはそもそも収益があがらない事業を本体から切り離してしまう場合など、そのシチュエーションは様々です。答えとしては、誤りで確定ですが、せっかくなので買収の防衛策について説明します。以下の5つの防衛策を覚えておきましょう。(ここでは簡単な説明のみ入れておきます。)

 

  • ホワイトナイト
    なんかかっこいいですね。なんか正義の味方みたいな感じがします。これは、敵対的買収が行われている際に、友好的な企業などが、買収を拒否できるところまで、買収して敵対的買収を防止することを言います。
  • ポイズンピル
    打って変わって、何やら怖い防止策ですね。敵対的買収が発生した場合に、既存の株主に対して予め時価より安く予約券を発行して、買収者の比率を下げて、買収にかかる費用を大きく上げる防止柵です。
  • クラウンジュエル焦土作戦
    クラウンジュエル焦土作戦とは、また対照的なネーミングですね。これは、何か魅力的な事業を持っている企業が敵対的買収に合った場合に、その魅力的な事業を外部で譲渡、売却して、企業としての魅力を無くし、企業は守るという防衛策です。しかし、根幹の事業、資源を出すことになるので、あまり実行されることはありません。
  • ゴールデンパラシュート
    これは、敵対的買収から防衛するために、現職の役員の退職金を、大幅に上げてしまうことです。これにより、買収しても現職の役員をおろすためにさらにお金がかかってしまうため、抑止力になります。
  • パックマン・ディフェンス
    目には目をで、買収には買収をという防衛策です。買収をしてきた企業に逆に買収をしかけます。互角に渡りあえるだけの資金が必要になりますし、漁夫の利というように、弱り切ったところを別の企業が買収してくることもあり、お互いにリスキーな状況になります。

さて、ここで問題文に戻りましょう。「敵対的買収の対象となる企業の経営者が、買収される前に会社の魅力的な資産を売却して、敵対的買収の意欲を削ぐ買収防衛策」これは、クラウンジュエルですね。ということで、この選択肢は誤りです。

 

4. コントロール・プレミアムとは、企業の経営陣が企業の所有者から株式などを買い取り、経営権を取得することで生じる 1 株当たりの価値の上昇分を指す。

コントロール・プレミアムとは1でも出てきましたが、買収により経営権を取得することによる、付加的な価値のことを言います。1株当たりの価値の上昇は関係ありません。じゃあ、どうやって、そのような付加価値の評価がされるのかは、コントロール・プレミアムの場合は、正確に定まっておらず、(というよりは、定めることができず)ケースバイケースです。よって、誤りになります。

 

以上より、解答は2となります。