令和 4 年度 第 1 次試験問題 企業経営理論 第一問 解答と解説

解答

 

5.

 

解説

 

企業の多角化についてです。多角化の基礎知識を持っていれば、あまり誰が提唱した言葉であろうと解答することができます。

この辺の著名な人物を全部覚えていくのは、かなり難しいのでまずは基礎知識の構築をして、さらに過去問を通して、知識の引き出しを増やしていくと、知識が結びつき、覚えるのも楽になっていくはずです。といってもこの問題の場合、かなりとまどった人が多いのではないでしょうか?判断がかなり難しい知識問題です。

さて、企業の多角化については、まずその種類を覚えましょう。多角化って聞くとなんとなく、イケイケな社長が、何か一発当てて、不動産にも手を出し、ネイルサロンやら飲食店にも手を出して、そのうち失敗して、衰退していくみたいなイメージがあるのは、僕だけではないはず。しかし、企業理論のうえでの多角化はもっと、しっかりとした理論の上に成り立つ戦略です。多角化は「水平型」「垂直型」「集中型」「修正型」の4つの種類があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

  • 水平型
    水平型多角化とは、現在出している商品のターゲットとしている顧客、またその類似顧客をターゲットにして、既存製品に関連した新しい製品を、投入することを言います。例とするなら、iPhoneを購入した同じターゲットのユーザに対して、iPadを投入する感じですかね。

  • 垂直型
    垂直型多角化とは、現在の顧客や類似した顧客をターゲットを変えず、既存製品の川上または川下の事業に手を広げることを言います。例えば、製品を販売のみしていた小売店が、製造も手掛けるといったように、製品の製造過程を広げることを意味します。
  • 集中型
    集中型多角化とは、現在の製品開発のノウハウを生かした、新商品を全く別の顧客をターゲットにして販売することを言います。mizuno とかがスポーツウェアの技術を生かして、マスクを作って、スポーツには関係ない顧客向けにも売っていました。あれも、集中型多角化と言えます。
  • 集成型
    修正型多角化とは、コングロマリット多角化とも呼ばれ、既存製品とは全く関係の無い分野で、全く異なる顧客をターゲットにして、事業を始める多角化のことを言います。前に、ユニクロが野菜を作るって話がありましたけど、ああいうのでしょうかね。

そして、もうひとつの観点として、多角化の進め方という観点でルメルトさんという多角化を徹底的に研究した方が提唱した2つのタイプの戦略があります。

  • 集約型
    ざっくりイメージで、関連した事業への多角化を進め、それぞれが関連しあい、高め合う多角化戦略になります。iPhoneiPadApple WatchMac Book・・・という事業展開も、ある意味集約型になりますかね。

  • 拡散型
    これまたざっくりイメージで、今の事業のノウハウや資源を利用して、新たな事業に取り組んでいく。これをどんどんやっていくと、事業の関連性は薄れていき、多くの多角的な事業に取り組むことになります。

ルメルトさんは、収益性に着目すると、集約型多角化の方が高くなると、分析しました。 

 

そして、今回の問題にかかわるところで、企業の多角化の歴史についてですね。上にも出てきたコングロマリットなんかを、Wikiで調べてみると流れは分かるかと思います。ざっくり言うと、1960~1980年代は、割と積極的に異業種への進出が積極的に行われて、多角化した複合型大企業がどんどん増えていったが、うまくいかず、どんどん衰退していきました。

 

 

 

とりあえず、ここまでの知識から問題文を見ていきましょう。

 

1.C.マルキデスによると、第二次世界大戦後の米国企業では、多角化の程度が一貫して上昇しているとされる。

一貫して上昇と言うのは、先ほど説明したように違いますね。1960~1980年代には積極的に多角化起業が増えていきましたが、その後はそのような企業は衰退していきました。ということで誤りです。

 

2.R.ルメルトや吉原英樹らの研究によると、多角化の程度が高くなるほど、全社的な収益性(利益率)が上昇する関係があるとされる。

多角化の程度が高くなるってのが、いまいちどういう状態なのかよく分からない部分もあるのですが、多角化がどんどん進んだ形態、つまり、アメリカの1960~1980の状態でしょうか。衰退しったことと照らし合わせると、収益性が良くなることは無いのですが、ルメルトは有名なので、知識の引き出しとして覚えておきましょう。

ルメルトは様々な観点から多角化を分析して、その企業の中核的能力、競争力を持った製品に集中した多角化を進めるのが、もっとも収益率は良くなると言っています。つまり多角化が進んでいくと、収益率はよくならないということですね。まあ、バラバラといろんなことをやっていて、効率が上がることもないでしょうし、想像に容易いところですね。

 

3.R.ルメルトや吉原英樹らの研究によると、多角化の程度が高くなるほど、全社的な成長性が低下する関係があるとされる。

同じく、ルメルトと吉原英樹さんです。彼らは、高くなるほど低下するとは言っていないです。言ってみれば、手を広げすぎず、自分の分野とシナジーがもてるほどほどのところが多角化は抑えましょうということですので、ある一定までは多角化を肯定しています。やり過ぎはダメだと言っているだけなので、この説明は誤りです。

 

4.伊丹敬之によると、 1 つの企業で複数の事業を営むことで生じる「合成の効果」には、相補効果と(狭義の)相乗効果の 2 種類があるとされる。そのうち、物理的な経営資源の利用効率を高めるものは、(狭義の)相乗効果と呼ばれる。

相乗効果と相補効果の違いはなかなか難しいです。相乗効果は、一緒にやることによって、1つの事業で得られる以上の売り上げを双方であげることが相乗効果になります。僕の好きな「ごはんですよ」と、「さとうのごはん」を並べて売ることによって、どちらもいつもの2倍の売り上げが出たよとか、まさに相乗効果ですね。

さて、では経営資源の利用効率を高めるというのはどうでしょう?これにより、双方の売り上げがあがるわけではなく、リソースの補完ですね。よって、これは相補効果です。

 

5.関連多角化を集約型(constrained)と拡散型(linked)に分類した場合、R.ルメルトの研究によると、拡散型より集約型の方が全社的な収益性(利益率)が高い傾向にあるとされる。

集約型と拡散型が出てきましたね。この選択肢の通り、集約型の方が全体的な収益性は高くなる傾向があるとルメルトさんは言っていました。よって、これが正解です。

他の選択肢は、なかなか見極めにくいですが、これは正解と明確に分かります。何かわかりにくい選択肢が多いなって感じたときは、結構な確率で、正解の選択肢は分かりやすい選択肢だったりしますので、あまりひとつの選択肢ではまらずに、最後までしっかり読んでみましょう。

 答えは5になります。