令和 4 年度 第 1 次試験問題 経済学・経済政策 第十九問 解答と解説

解答

 

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解説

 

資本移動の自由化の効果についてです。

グラフもいよいよ複雑になっていて、難易度としては高くなってきています。資本移動の自由化とは、簡単に言うと資本を国家間で自由に移動できる取り決めです。

戦後日本は、しばらくの間、資本の移動は限定的な政策をとっていました。なぜでしょう?これが自由になると、海外から外国資本の企業が設立されたり、日本企業が買収されたりするなど、戦後の弱い日本企業がいきなり自由化させられると、ひとたまりもなくつぶされてきたでしょう。このようなことを防ぐため、国は海外との資本のやり取りを制限することによって、日本の企業を守ってきたわけです。

しかし、それでは、海外とのやり取りでは、どちらか一方が不公平な取引がなされてしまい、国際的に自由なやり取りを促進するため、OECD(経済協力開発機構という、組織があります。日本も国際的な交易を進める手前、OECDに加盟し自由化を何度かにわけて実施していった経緯がある

なんだか、そうまですると、自由化ってデメリットなのかというと、そうでもありません。新興国に対して、自社工場を作り安価にモノを作ったり、または優良企業に投資するなど、海外に投資や工場の配置をすることにより、リスク分散をすることになります。

デメリットとしては、逆に海外からの買収など激しい競争にさらされて、競争力のない企業は淘汰されていき、自国に何も残らないくなってしまう。そして、海外の状況に振り回されて、インフレ・デフレなど社会が不安定になりかねないこと。また、海外に工場が移行していき、国内の産業が空洞化してしまうこと。

さて、問題を読んでいきましょう。

 

世界にはⅠ国とⅡ国があり、両国とも生産要素として資本と労働を利用して同
一財を生産しており、労働投入量は一定

なかなか寂しい世界です。2国しか存在しない。両国とも、生産要素に資本と労働があって、同一の財を生産している。その他の観光とかは、あんまり考えないってことでえすかね。そして、労働投入量は一定だと。

 

MPKⅠと MPKⅡは、Ⅰ国とⅡ国の資本の限界生産物曲線

ということで、図を見てみましょう。きれいに右上がり・左上がりが逆のグラフになっています。真逆の状況なのかと思っちゃうかもしれませんが、両サイドに原点Oがいることに注意です。これは両サイドから、鏡のように描かれたグラフなわけで、真逆なことを表しているわけではありません。

さて、ここで表されているのは、資本の限界生産物曲線とはなんだってでしょうか。限界~というのは、そろそろ慣れてきたと思いますが、資本を1投入したときの、生産量の増加分でした。もっと言うと、総生産物曲線の各接線と傾きの値を並べたものと言えますね。

 

 つまりは、以下のような形の総生産物曲線の傾きですね。見て分かるように、投入資産量をどんどん増やしていっても、基本的に生産量の増え方とはどんどん逓減していきます。逓減とはまた難しい感じが出てきましたけど、これは経済の問題でよくお見掛けするのするので、覚えておきましょう。だんだん減るって意味です。

ここで、はて、傾き(投入量を1増やしたときの生産量の増え方)を並べたグラフの縦軸が、資本のレンタル料とは?とちょっと違和感を持たれた人もいるのではないでしょうか。僕は持ちましたね。はてなマークでいっぱいです。

ここで資本のレンタル料について考えてみましょう。資本のレンタル料とは何かというと、資本を1単位追加するために、どれくらいの費用がかかりますかっていう値です。資本1かけるにも、銀行からお金借りたりすると利子がかかってきますね。よって、費用とかけられる資本は同じではありません。

そして、限界生産物とは資本を1単位追加したことによって増える生産量、いわば追加される収入です。そして、追加される収入が、追加される費用を下回るとはどういうことでしょうか?もちろん赤字になっていきます。よって、それ以上資本を増やすことはしないということですね。つまり極限的に価格を下げていった場合、限界生産物と資本のレンタル料は同じと考えることができます。

 

問題のグラフに戻りましょう。両サイドから、グラフは下向きにに傾いているので、資源が増えていけばいくほど、反比例的に逓減していくことがわかります。これは元の総生産物曲線の傾きを考えれば、想像がつきますね。また、現実的にも資本が増えていけばいくほど、資本があふれていき、資本のレンタル料は下がっていきます

さて、このグラフ形状が出たときは、ほぼほぼ間違いなく、類似問題になるはずなので、しっかりと覚えていきたいところ。グラフにr1とr*1、r2とr*2の組み合わせの位置について着目しましょう。

時系列的に、r1 ➡ r*1と、r2 ➡ r*2になります。まず、r1のほうは、MPK1の方のグラフの話で、1から*1へは上昇する方向に向かっています。つまりは、資本量を減らし、レンタル料が増えていっているのです。これはどういう状況なのでしょうか?

ここでやっと、資本移動の自由化の話が出てきます。資本移動の自由化がある場合、自国がすでに限界生産力が下がってしまった時よりも、資本がもっと功利的に儲かる他国へ資本が移動していきます。すると、自国の資本がどんどん減っていき、それに伴い、レンタル料は増えていくわけですね。そのため、r1からr*1の流れが生まれます。

では次に、r2 ➡ r*2の流れをみていきましょう。今度は逆に資本が流入してくる国です。こちらでは、資本が不足していて、資本移動の自由化により、資本が流入してきます。すると資本量が増えて、レンタル料が逓減していきます。これが、r2 ➡ r*2の流れになるわけです。

 

もう1つ重要なのが、労働者の賃金所得の変化です。まずⅠ国は、資本はO1Cで、レンタル料のr1です。資金所得については、生産物の余剰として出てくるので、AGr1になります

資本移動の自由化後、資本量はDでレンタル料は、R*1になっているので、賃金所得は、AEr*1となり、減少しています。Ⅱ国も同じように考えて、BFr2から、BEr*2に賃金所得は増えています。

 

では、問題を見ていきましょう。

 

a 資本移動の自由化によって、Ⅰ国からⅡ国への資本移動が生じ、資本のレンタル料はⅠ国が r*Ⅰ、Ⅱ国が r*Ⅱになる

ポイントは2点です。グラフからもわかるように、資本が多く、レンタル料が低く設定されているのは、Ⅰ国であり、ながれとしては、Ⅰ国からⅡ国で正しいですね。

 

b 資本移動の結果、労働者の賃金所得は、Ⅰ国では四角形 OⅠr*
ⅠHC に増加し、Ⅱ国では四角形 OⅡr*ⅡHC に減少する。

賃金所得は生産物の余剰として出てくるのでしたね。Ⅰ国はAER*1、Ⅱ国はBER*2でしたので、これは誤りですね。

 

c 資本移動の結果、資本所有者のレンタル所得は、Ⅰ国では三角形 AEr*
Ⅰに減少し、Ⅱ国では三角形 BEr*Ⅱに増加する。

ここの説明で出てくる三角形は賃金所得の話ですので、外しやすいですね。資本所有者のレンタル所得は、レンタル料と資本量の掛け合わせたものになりますので、四角形1国が、O1R*1EDとなり、Ⅱ国が、O2R*2EDとなります。よって、誤りです。

 

d 資本移動の自由化によって、世界全体で三角形 EFG の所得が増加する。

これはどうでしょうか。Ⅰ国は下の青、Ⅱ国は赤が所得である。資本が移動することによって、全体が所得となったので、黄色部分がふえているのがわかります。つまり、三角形EFGが増えています。正しいです。



よって、正しいのは、aとdの組み合わせですので、3が答えです。