令和4年度 第 1 次試験問題 経営法務 第十五問 解答と解説

解答

 

2.

 

解説

 

会話問題が続きます。会話を見ていきましょう。

 

甲 氏:「弊社のパンフレットに掲載する絵柄の制作を、外部のイラストレーター乙氏に依頼することとなりました。この絵柄の著作権について教えていただきたいのですが。」

イラストレーター乙氏に、絵柄のデザインを依頼しています。これはどうやら著作権に関するもののようですね。企業側と、イラストレーターなどへの外部委託については、実際に問題になるケースも少なくなく、問題として扱われる頻度も高いです。

あなた:「乙氏は著作権法上、 [   A   ]  と [   B   ] を有します。例えば、乙氏の意に反して絵柄の内容を勝手に改変すると、[   A   ]  の同一性保持権の侵害となります。[   A   ] は [   C   ] 。」

乙氏は、絵柄のデザインを依頼されて、その依頼に従いデザインを作成しました。その際に、発生する乙氏の権利は何でしょうか?著作権には、「著作財産権」、「著作者人格権」、「著作隣接権」があるんでしたね。直接的に作者が持ち得る権利は、最初の2つになります。ただ、いわゆる著作権は、著作財産権に等しく、同格で呼ばれます。

よって、AとBにはこの2つが入りそうです。しかし、順番がありますね。Aは後ろにも登場してきます。

乙氏の意に反して絵柄の内容を勝手に改変すると、[   A   ]  の同一性保持権の侵害

同一性保持権という用語が出てきました。これはちょっと調べておきましょう。

 

同一性保持権 

一性保持権(どういつせいほじけん)は、著作者人格権の一種であり、著作物及びその題号につき著作者著作権者ではないことに注意)の意に反して変更、切除その他の改変を禁止することができる権利のことをいう(日本の著作権法20条1項前段。以下、特に断らない限り、引用法令は日本のもの)。

概要

著作物が無断で改変される結果、著作者の意に沿わない表現が施されることによる精神的苦痛から救済するため、このような制度が設けられていると理解されている。もっとも、元の著作物の表現が残存しない程度にまで改変された場合は、もはや別個の著作物であり、同一性保持権の問題は生じない(「パロディ・モンタージュ写真事件」(第1次)、最高裁判所判決昭和55年3月28日)。場合によっては私的改変を禁止する権利もあり、他人に私的改変させるツールを提供することは不法行為として問うことができる

また、ベルヌ条約上の同一性保持権は、著作者の名誉声望を害するおそれがあることを要件とした権利になっているのに対し、日本の著作権法では、そのような限定はされておらず、著作者の意に反することを要件とした権利になっており、これを問題視する見解もある

例外

以下の場合には、同一性保持権の適用が除外され、改変が認められる(著作権法20条2項)。

  • 用字の変更など学校教育の目的上やむを得ないと認められる改変(1号)
    • 小学生向けの教科用図書に文学作品を掲載する場合に、小学生の学力では読むことが困難な漢字ひらがなに変更する行為などがこれに該当する。
  • 建築物の増改築・修繕等に伴う改変(2号)
    • 人間の居住性を確保しなければならない建築物の実用性を考慮したものである。例えば、建築士のAさんの企画、設計及び指揮によりX大学に独特な形態の正門が建たれたと仮定して、数年後、学生数などの増加で学校財団は正門を拡張・変形するという計画を樹立した。具体的な内容は正門の一つの軸を2メートル移転するというものだったが、こうなると当初の正門とは外観が変わる。この場合、独特な形で正門が作られているので創作性が認められて建築著作物として建築士のAさんが著作者となる。正門の製作者の建築士のAさんと所有者の学校財団Xとの権利が衝突するが、この条項により著作者の同一性保持権が制限される。
  • プログラムの著作物について、特定のコンピュータで利用できるようにしたり、より効果的に利用し得るようにするために必要な改変(3号)
    • 特定のオペレーティングシステム(OS)上でしか動作しないプログラムを、他のOS上でも動作させるための改変、プログラムの不具合を取り除くための改変(デバッグ)、プログラム動作の高速化を目的として、冗長な処理ステップを取り除くための改変などがこれに該当する。プログラムの開発、利用現場で行われる改変行為のほとんどがこれらを目的とすると考えられるため、プログラム著作物の同一性保持権を主張できる場面は少ないと考えられる。
  • その他の利用の目的及び態様に照らし、やむを得ないと認められる改変(4号)
    • 歌唱や演奏の技能が乏しいため、原曲に忠実に歌唱や演奏ができない場合であっても、本号の規定により同一性保持権の侵害にならない。

 

「同一性保持権」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2022年12月19日 (月) 14:56 UTC、URL: 同一性保持権 - Wikipedia

 

「著作者人格権の一種であり、著作物及びその題号につき著作者著作権者ではないことに注意)の意に反して変更、切除その他の改変を禁止することができる権利」

という概要さえ覚えておけばとりあえずOKです。その他の付加情報も合わせて覚えておくと良いかもしれませんが、あまり一気に覚えるのはやめておきましょう。

これにより、[A] は著作者人格権であるというのは分かりますね。つまり、[B]は著作権となります。そして、その後の会話で、[著作者人格権] は [C]と言っています。ここに入る言葉はなんでしょう。

  • 契約によって著作者から譲り受けることができます
  • 著作者の一身に専属し、譲り受けることができません
  • 著作者の一身に専属し、譲り受けることができませんが、同一性保持権を契約で譲渡の目的として規定すれば、著作者から譲り受けることができます

このいずれかということになります。契約により、譲渡が可能かどうかが焦点になっているようです。結論だけ言うと、著作者人格権は、譲り受けることはできません。あくまでその作者の人格を守るものであります。改編することにより、イメージを崩したりすることから守る権利ですので、そんなものを譲り受けることはできないということです。

 

以上より、解答は2となります。