令和 4 年度 第 1 次試験問題 経済学・経済政策 第七問 解答と解説

解答

 

設問1)5

説明2)3

 

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解説

 

前問の45度線分析から、今度はAD-AS分析が問題の題材となっていますね。この辺は経済の分析手法として、体系的に覚えておきたいです。

45度線分析とは、財やサービスを取引する財市場を分析するためのツールです。このツールを用いて分析できるのは、財市場が均衡する条件に主点がおかれた市場が対象になります。その他の分析ツールには何があるのでしょうか?代表的な2つの分析手法を見てみましょう。

 

IS-LM分析

IS-LM分析とは、財市場に貨幣市場を加えて分析するものです。この分析では、国民所得と利子率を用いて、財市場と貨幣市場を同時に均衡する条件を分析するためのツールになります。単純な需要・供給と、お金の流量を併せ見て均衡条件をはかるものです。

 

 AD-AS分析

この問題の、トピックとなるのがAD-AS分析です。これは、財市場に労働市場と貨幣市場を加えて分析する手法になります。財市場、貨幣市場、労働市場すべての市場の均衡を分析することができる分析手法です。

AD-AS分析に使用されるグラフでは、縦軸に物価水準、つまりどれくらいの物価かってことですね。そして、横軸がGDP国民所得になっています。AD-AS分析では、このように物価水準と国民所得の関係性を使って分析をしていきます。

 

 

AD(総需要曲線)を見ていきましょう。これは財市場と貨幣市場のどちらも均衡にする物価と国民所得の組み合わせを表しています。基本的に、右下がりな線になっているのが特徴的です。なぜ右下がりなのでしょう。財市場、および貨幣市場の均衡を考えていくと、物価があがればあがるほど、財布の紐はきつくなり、実質GDPは下がっていくものだというのが、想像つきますね。

さてつづいて、AS(総供給曲線)とは、労働市場における供給であることに注意してください。つまり、主体となっているのは労働者で、GDPを提供するわけです。労働者が労働を提供し、いわば需要を出すのは、企業側という点に注意です。では、物価によって労働供給とは変わってくるものでしょうか?基本的にそんなことは無いですよね。どんな物価状態であれ、必要とされた労働量が提供されるはずです。

しかし、ここで、その考え方について大きく2つあります。それが古典派ケインズ派です。古典と言ってしまうと誤解を生みそうで、まるでケインズが新しくて良い考え方という印象を与えてしまいそうですが、決してそうではなく、考え方が違う経済学と考えてください。

古典派では、労働市場は常に完全雇用が成立していることが前提となっています。完全雇用とは、働く意思がある人全員が働いている状態(つまり、賃金が低いから働くのやめよーとかいう人は除くということ)のことです。え、そんなばかなと思うかもしれません。理論的には、こうです。物価があがると、実質的な賃金は下がっていく、そうすると企業は人を安く雇えるので、たくさん労働者を雇おうとする。労働需要が高まると、賃金は結局また上昇して、どこかで均衡する。このサイクルで、物価がどう変動しようとも、結局のところ、完全雇用が成立するという理論です。働く人が増えると、それだけ比例して、需要も増えていくんだって思想、これをセイの法則と呼びます。古典派ではこの考え方が基盤となっています。

 

 

ケインズさんはちょっと考え方が違いました。賃金に関して、下方硬直性を考慮する必要があるんじゃないかなと言ったわけです。物価がある一定のところまで下がったとしても、ある一定のところで、賃金を下げることができない状態になるわけです。ちょっと意味合いは違いますが、最低賃金ってもんがあるでしょうってことです。そのため、名目賃金はあるところで下がらない状態で、それでも物価は下がると、実質賃金は上がりますよね。この状態では、労働需要は物価によらず上がらないため、失業者(非自発的失業者)が出て、完全雇用は成り立ちません。そのため、あるところまでケインズ派におけるAS曲線は、右上がりになって、そして、完全雇用が成立した段階で、古典派と同様に垂直状態になります。

 

さて、ここまでわかったところで、問題に戻りましょう。今回の問題では、見事にAS曲線は垂直になっていて、古典派によるAD-AS分析であることがわかります。

 

設問1

 

それでは、設問1の問題文を読んでみましょう。「古典派モデルにおける総需要曲線 AD と総供給曲線 AS に関する記述として、 最も適切なものはどれか。 」と、やっぱり古典派に関する問題ですね。古典派におけるADとASについて問う問題です。では、選択肢を見ていきましょう。1~3は、利子率と貨幣需要という言葉からもわかるように、AD-ASモデルではなく、IS-LMモデルの話です。これらは古典派以前の選択肢となりますので、まずは外します。

では、4番目の選択肢です。

労働市場においては実質賃金率の調整によって完全雇用が実現する。した がって、物価水準が上昇すると、実質賃金率の下落による労働需要の増加を通じて総供給が増加する。 

さて、「物価水準が上昇すると、実質賃金率の低下による」と書いていますね。これは名目賃金が下方硬直を示す言葉です。名目賃金が一定になっていたため、物価水準が上がると、実質賃金が下がるわけですね。ということは、これはケインズ派に関する説明になります。

さて、5番目です。すでに、消去法でもこれが解答であることは分かりますが、念のため確認しましょう。

労働市場完全雇用水準で均衡している。したがって、物価水準が変化して も、名目賃金率が同率で変化するので、雇用量が変化することはなく、生産量 も完全雇用水準で維持されたままであり、総供給も変化しない

まず、「労働市場完全雇用水準で均衡している。」これはまさに、古典派の考え方です。そして、「物価水準が変化しても、名目賃金率が同率で変化するので、雇用量が変化することなく、生産量 も完全雇用水準で維持されたままであり、総供給も変化しない」。このため、古典派の総供給曲線は垂直になるわけですね。

というわけで、解答は5となります。

設問2

 

それではつづいて設問2です。財政・金融政策の効果についてです。

 

1.政府支出の増加は、総需要を変化させないが、総供給を増加させる。 

政府支出を増加すると、貨幣も増え、需要が増えていきADは右へシフトします。よって、変化させないというのは誤りです。

 

2.政府支出の増加は、物価水準の下落を通じて、実質 GDP を増加させる。 

政府支出の増加は、物価水準に直接的には関係しません。ADを右へシフトさせるので、政府支出の増加によって、同じ物価水準においても、需要の高まりによりGDPが増加するわけです。
 

3.名目貨幣供給の増加は、物価と名目賃金率を同率で引き上げ、実質 GDP に は影響を与えない。 

名目貨幣供給が増加すると、つまりは貨幣が溢れていき、物価上昇、名目賃金率をあげていきます。しかし、あくまで名目上であり実質のGDPには直接的には影響を与えません。これが正解ですね。

 

4.名目貨幣供給の増加は、実質貨幣供給を一定に保つように物価を引き上げる とともに、実質 GDP を増加させる。

念のため、最後のも見てみましょう。名目貨幣供給が増加していくと、物価が引きあがるというのはその通りですが、実質GDPは変わりません。誤りです。

よって、解答は、3ですね。